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勘違いさせる女、涼子(3) ~「宇宙人との恋」編~

 三日月のきれいな夜でした。
 涼子は月をまっすぐに見上げて言った。
「私の王子様は、どこ?」
 月を一途に見上げるその様子は、かぐや姫のように美しいものでした。
 その手元にアルコールさえなければの話だが。
 季節は秋、この時期の涼子の楽しみは一日の終わりに小さなベランダで酒をあおること。
「かーっ、うめえな、おい、しかしっ」
 涼子はぐびぐびと喉をならして、「ほろよい」の白を飲み干していく。
「はあーっ」
 ため息の相手は空に浮かぶ三日月。
「いつまで一人なんだろう・・・男、ほしいな・・・ちがった、結婚したいな」
 思い返せば袖にするのが惜しかったたくさん男もいた。
 そう、あの人も・・・
「あの人はきっと宇宙人だったんだ。きっと、そう・・・E、D(E・Tの間違いです)」
 それは短くて小さな恋。涼子が二十六歳のときの恋だった。
「♪アイ、マイ、ミー、マイン、マイボーイ・・・」
 菊池桃子の真似で口ずさむ。
「ラ・ムーか・・・」
 涼子は古い歌が好きだ。ひと世代どころではなく、ふた世代、さん世代うえの人間が聞いていたような歌が。
 涼子は苦笑いして、再び缶に口をつけた。
 ある一人の精悍な男を思い浮かべながら。

 

 須藤修。私たちより二つ上の二十八歳。
 すごいストイックな人なんだって。仕事してるかジムで鍛えてるかのどっちかって生活してて。
 だからすごい体してるらしいよ。背も180ぐらいあって。
 しかも顔もかっこいいらしい。
 え? なんでそれで彼女がいないのかって?
 仕事とトレーニングで忙しいって言い訳してるみたいだけど、どうやら理想が高いみたい。
 あと、無駄な恋はもうしたくないんだって。
 だから、結婚につながるような相手を選別してるらしいよ。
 もてるからできることだよね、相手を選ぶなんて。
 仕事?
 IT系。システムエンジニアだって。
 マッチョなエンジニアって。あはは。
 ちょっと笑えない?
 あれ、私だけ、受けてるの?
 涼子、あんた、真面目で堅い人って意外の条件はゆるいよね。ストライクゾーンひろいわ~。
 そのへんに問題が潜んでてうまくいってない気もするんだけど、ま、いっか。
 でも、無駄な恋はもうしたくない、なんてこれまで結構遊んできたひとのセリフみたいにもとれるけど、どう思う?
 そう、そこも気にならないんだ。
 ま、涼子もいろいろあったもんね。そこにはふれるなって。ごめん、ごめん。
 じゃ、ま、いっか。
 で、いつ会う?

 

 須藤を紹介してくれた真美のコメント通り、須藤はストイックで無駄のない男だった。
 理屈っぽいところがある反面、優しい気遣いもある男だった。
 そして、なにより真剣に将来のことを考える相手がほしいというところが涼子にささった。
 涼子はあっという間に須藤に夢中になった。
 すぐに燃え上がるのはいつものことなのだが。

 

 二人が盛り上がった季節は夏。
 休日に会うとき、須藤はいつもTシャツとジーンズで待ち合わせ場所にやってきた。
 ざ・スポーツマン。そんな須藤が街を歩けば、振り向いて見る女も少なくなかった。
 そんなとき涼子の心は小さく踊った。
「ん? なにかおかしい?」
「ううん、なんでもない」
 隣を歩く須藤を見あげて、涼子は満面の笑みを浮かべた。
 これが続く人生・・・悪くない。
 横を見ると須藤の胸がある。
 いつものように薄いTシャツをまとった胸がはちきれんばかりになっていた。
「あの人、いい体でしょ。でも、あれがちょっとね・・・シャラポワくん。ぐふふふぅ」
 真美がそう言って笑っていたのを思い出す。
 須藤の胸板は厚く広く、自身のまとったTシャツを押し上げている。
 そのトップには、(たぶん)ちょっと大きめの乳首が浮き上がっていた。
 ああ、たまんない・・・いけない、いけない。誘惑に負けちゃだめ。
 これは結婚に続く大事な恋。
 真っすぐ続く教会のバージンロードを歩くためには、粘着質で瞬間的な欲望を捨てなきゃ。
 ああ、でも、あのピップに触れてみたい。
 あそこから雄のエネルギーってゆーか、パワーが出てそう。
 それに触れたら肌荒れとか治るんじゃないかしら。
 まさにピップね。
 磁気の力ではなないけれど、女にはもっと必要なクレオパトラパワーやねん。きっと、そうやねん。
 やっぱ好きやねん。
 ピップ好きやねん。
「どうしたんですか? 苦しいんですか」
 気づけば走った後のように肩で息をしている。
 涼子の葛藤の激しさを物語っていた。
 体中で暴れる欲望を抑えるために、息が乱れるなんて・・・若いって、ほんと恥ずかしい。
「持病のシャクが」
 混乱しておかしな言い訳が口をついて出た。
「え?」
 時代劇ならこれですべてご破算になるのに。
 娘さん、大丈夫かい。
 すみません、持病のシャクが。
 これでOK。
 黄門様がかわいそうな町娘の復讐に手を貸してくれるって流れになる。
 ってゆーか、シャクってなによ。
 よゆうしゃくしゃく、釈由美子じゃあるまいし。
「いえ、なんでもないです。さっきちょっと走ったのが、時間差できたのかな」
「はっはっは」
 須藤が大きく笑う。
 歯がしろ~い。男らしい。やっぱ乳首たってる~。
「いや、失礼。おもしろいな、涼子さんって」
 いえ、こちらこそ失礼してます。
 ピップばかり気になって。
「そんな。おもしろいだなんて」
 ちょっと性欲強めでエロいんです。でも、必死に我慢してるんです。
 そんなこといえない。
 だって彼は大事な旦那候補なのだから。
 太陽を背負った須藤のシルエットを改めて確認する。
 すごい体してる・・・初めてのデートで求めてきても全然不思議じゃない仕上がり。
 そんな体だ。
 あらゆるエネルギーが力強く放出されている。
 あの体から放出される性欲は華厳の滝のよう(たぶん)。
 真美と一緒に行ったケーキバイキングの会場にあったタワー型のホワイトチョコレートフォンデュを思い出す。
 絶え間なく流れる粘り気を帯びた白い液体。
 それをカットバナナに当てながら、「な~んか、いやらしい、きゃははははは~」と真美は笑っていた。
 苦笑して真美を見ていた涼子の手元のグラスにはカルピスが入っていた。
 連鎖的な滑稽さに涼子は気づいていなかったのだが。
 そんなことより目の前の須藤だ。
 彼は我慢してくれている。
 二人は四回目のデートだ。
 なにかあってもおかしくない三回目のデートもなんなくクリアした。
 きっと普通の人の十倍は性欲が強いはずだから、百倍は我慢してくれている。
 え? 計算間違ってないかって?
 そんなことはない。
 これは涼子が導き出した男性の性欲抑制公式、キョンキョンの公式だ。
 十倍×十倍で百倍。
 十倍の二乗、まさしくキョンキョン。
「僕、メンサ会員なんです」
 え、メンス会員?
 なに、この人、生理あるの?
 男が生理があったら、どっかの協会にはいるの? なに、会員って?
 どんな協会?
 公になってないやつ? そんなの知らない。
 そもそも、男の人って生理あるの?
 できるの? 
 穴があるの? それとも穴はないけど、出血するの?
 バックにその機能があるの?
 子供うめんの?
 だからうっすらと自慢げなの?
 で、前はどうなってるの? 
 そんなこと、学校で教わってないわよ。
 涼子は頭を抱えた。
「涼子、さん」
 涼子の思考の暴走は止まらない。
 私、すぐにはしたくない、大事にしたいって思ってるけど、そっちがないとダメよ。
 しょぼいのも絶対ダメ。
 でも、メンスなんて言ってるぐらいだから、かっくじつに小さいわよね。
 生理もあって、前もどっか~んなんてこと、あり得ないじゃないのおおおおおおおおおお。
 涼子はヘッドバンキングをやめ、須藤の顔を見あげた。
 須藤は驚いた顔で涼子を見ていた。
 こんな精悍な顔してるのに・・・なぜ?
「だますなんて、ひどい」
「え?」
「見た目がそうなら、全然我慢できるの、小さくても」
 小さそうで小さいなら全然いい。
 誰も傷つけない。
 地球も裏切らない。
「なにがですか?」
「でも、あなたは・・・ちょっと、そのアンバランスすぎるし、こっちも期待が高まってたってゆーか。たかまるって、その、そうじゃないから、違うから。そんな女じゃないから」
 そんな女なのである。
 男が真面目かどうか試したい。
 すぐに手を出してこない真面目な男を選別したい。
 そう思いながら須藤と会っている涼子だったが、須藤のボディの良さにあてられ、涼子の性欲は満タンになっていたのである。
「え?」
「メンスなんて。。。」
「うん、だからメンサのね」
「ごめんなさい! あなたのことは素晴らしいひとだと思う。優しいし、素敵だし。でも、私、科学に逆らって生きるなんて、無理」
「科学?」
「そう、人の科学。それとも、自然の摂理ってゆーの? 私、秘密守るから。それが短くても付き合った男女の礼儀」
「あの、涼子ちゃん?」
「あなたをびっくり秘密人間TVショーになんて、出さない、絶対にっ!」
「TVショー?」
 涼子は涙を浮かべ、須藤をまっすぐに見た。
「思い出を、ありがとう」
 そして、須藤に背を向け、一目散に駅へと駆け出した。
 照り付ける太陽のほうへと向かって。
 ああ、燃えるように熱い。
 涼子は汗に混じって、何粒も涙を流した。
 涼子、二十代なかばの夏の日の出来事だった。

 

「ああ、私の王子様はどこ・・・」
 涼子ががくりと首を垂れた。
 その手元から「ほろよい」の缶が落ちる。
 落ちた空き缶はカラカラと音を立てて、小さなベランダを転がった。
 涼子は静かに嗚咽しはじめた。
 かわいそうな涼子である。

 

 さて、今回の話もそうだが、涼子は勘違いさせるだけでなく、勘違いすることも非常に多い女だ。
 勝手に勘違いし、勝手にパニックに陥り、勝手に国交を断つ。
 幾度となくこれをやっている。
 しかし、自分の想いにまっすぐな涼子は自分の過失にはなかなか気づかない。
 気づいたとしても、うまくリカバーできない。
 そして、美人だけどすこし変な女。
 そんな評判を少しずつ広めているのである。
 涼子が自らの弱点に気付き、コミュニケーション能力を高めることで、その弱点を解消する日はくるのか?
 それはまた別のお話で。

 

「明日も会社・・・やだ・・・」
 つぶやく涼子の涙は止まらない。
 輪郭の美しい月はよゆうしゃくしゃく、釈由美子で涼子を見下ろしている。

 

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