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勘違いさせる女、涼子(2)~「涼子が勘違いした夜の山下公園」編~

「眠れない・・・」
 小さなベッドで寝返りをうち、ベッドのすぐ横の机の上の時計に手を伸ばす。
 時間は二時をまわっていた。
 日曜の深夜はいつもこんな感じだ。
 週末に寝すぎてしまって眠れなくなる。
 しかし、明日から会社と思うとベッドを出る気にはなれない。
 少しでも多く眠らないと明日の仕事に響く。
 涼子は見た目よりずっと真面目な女だった。
 その華やかさゆえに誤解されることも多い女なのだが。
「あ~あ・・・」
 いつまでこんな生活が続くんだろ。
 早くいい結婚がしたい。
 小さなマンションでの一人暮らしから脱却したい。
「寂しいな・・・」
 そのために努力しているのに。何がだめなんだろう。
 涼子はその理由を探ろうと、過去を手繰り寄せる。

 何度も思うことは、自分には落ち度はないということだ。
 涼子はいたって真面目に伴侶を探し、求めている。慎重に。
 しかし、真面目に関係を構築したい涼子に対して、男たちはいい加減だ。
 すぐに手を出してくる。
 それが涼子は許せない。
 というか、そんな相手とは結婚が考えられない。
 そんな涼子を友達であり、たくさんの旦那候補を涼子に紹介してくれている真美は笑う。
「ええ~、いいじゃん、減るもんじゃなし。それともすり減るの? そんなに激しくするの? ぎゃはははは(爆笑)・・・でしょ? そうじゃないんでしょ。だったらいいじゃない。どうせする相手なんだし。大人になりなよ」
「そうなんだけど・・・」
 言われてみればそうなのだ。
 いずれはする相手なのだ。
 涼子は何もそっちが嫌いなわけではない。
 むしろ・・・
「事前にリサーチしといたほうがいいって。ガタイはいいのに、あそこはこれってこともあるでしょ? ぎゃははははは(爆笑)」
 真美は短い小指を立てて笑った。
 それもそうなのだ。
 潔癖な旦那探しをすれば、そういったリスクは生じる。
 それでも涼子はすぐに女に手を出すような男とは結婚したくない。
 そんな男と結婚すれば、浮気に苦しめられるに決まっている。
 ゴールインした途端に新しい心配事が出てくるような男とは一緒になりたくない。
 あのとき体を求められなければ。
 いやらしいことを言われたり、されたりしなければ・・・何人かの男の顔が走馬灯のように頭を流れる。
 あっ!
 ある男の顔を思い出し、涼子は奥歯をかんだ。 
 何も口にいれてないのに、血が滲んだときのような、苦いような味が口にひろがる。
 あれは私のミスだった。
 私がSNSに疎くなければ・・・
 彼はいい夫になったかもしれない。
 涼子は毛布をぎゅっと握りしめた。
 いい男だったのになあ・・・
 その男の名前は木村陽一という。

 あの頃、涼子はまだ大学生で真剣に結婚相手を探していたわけではなかった。
 ただ、いくつかの恋で痛い目にあい、真面目な交際をしたいと思っていた。
 そして、交際範囲のひろい真美に泣きついたのだった。
 真美が紹介してくれたのは年上の商社マンだった。
 木村は商社マンらしく、ガタイがよく、明るかった。
 年は五つしか離れていなかったが、それ以上に木村はオトナに見えた。
 頼もしかった。
 木村の口から出てくる「仕事」の話はどれもスケールが大きく、ダイナミックだった。
 そんな木村に涼子は急速に惹かれた。
 木村も自分の話に真剣に耳を傾ける美しい女子大生にすぐに本気になった。
 二人はデートを重ねた。
 木村はいろんなところに連れて行ってくれたし、いろんなことを一緒にしてくれた。
 バーベキュー、ボーリング、カラオケ、屋台のおでん、パターゴルフ、釣り堀、夜景のきれいなワインバー、夜の競馬場・・・
 木村とのデートはいつも楽しかった。
 同年代の男たちのようにがっついてこない木村のことを、涼子はいつしか本気で好きになり、尊敬しはじめていた。
 いま考えると、木村を自身の中であまりにも崇めすぎてしまったことも良くなかったのだ。
 木村は二十六の健康な青年だ。
 そういったことがしたくなっても不思議はない。
 ここまでデートを重ねてきて、それがしたいというのはむしろ当たり前である。
 しかし、木村が涼子に関係を迫ったわけではない。
 それでも、二人の関係は終わりを迎えてしまう。
 涼子が勘違いしたり、勘違いさせたりということは、このころから始まっていたのである。

 ある夜、涼子は木村に誘われ、中華街に行った。
 エビチリ、水餃子、青菜と牡蠣の炒め物、ピリ辛の麻婆豆腐、少し甘い粥。
 木村のオーダーするものに間違いはなかった。
 涼子はいつものようにデート中はすべてを木村にゆだねていた。
 店を出て、木村の横を歩く。
「食べすぎちゃったね。少し歩こうか」
 二人は中華街のすぐそばの山下公園へ行った。
 ゆっくりと歩いた後、二人は海に向かって一直線に並んでいるベンチのひとつに座った。
 平日のせいか、人は多くなかった。
 遅い犬の散歩をしている近所の人間がちらほらと見えるだけだ。
 春の海からの風はぬるく、重い湿気を含んでいた。
「春ですね」
「そうだね」
 私の人生も今、春真っ最中です。
 なんつって。
 涼子はにやけながら、木村から顔を隠すように首をひねった。
 ん? 
 少し離れたところにあるベンチにカップルがいた。
 というか、カップルがしていた。
 涼子は軽く目をこする。
 うそでしょ。
 コンタクトをした涼子の視力は両目ともに2.0である。
 夜の暗さになれてくると、二人が結構激しく求めあっている様子が見てとれた。
 女は男にまたがって、小刻みに縦に揺れていた。
 風に揺れてるとか、音をとってるとしたら横に揺れるよなあ、やっぱりしてるよなあ・・・
 女の胸に頭髪の長い男が顔をうずめている。
 女のほうは父、いや、乳が出ているのではないだろうか。父が泣くぞ、若い娘よ。
「どうしたの?」
「え?」
 涼子は驚いて木村のほうを振り返る。
「ん?」
 木村は不思議そうに涼子を見ていた。
「いえ・・・海、キレイですねえ」
「そうだね」
 木村が涼子が大好きなゆるい笑みを顔全体にひろげ、再び海を見た。
 その横顔をずっと見ていたい。
 これからさきの人生も・・・でも、今は隣のエッチも見たい。
 涼子は「海なんてくそだぜ。いつでも見れるし」と思いながら、グインと首をまわし、カップルに再び注視する。
 女の影はさっきより一回り大きく見えた。
 さっきより反ってる~、弓のように反ってる~、ほんとにゆみみたい~、由美かおるって年とらない~。
 男の長い髪がさっきより激しくゆれている。
 初めて見る他人の契りに涼子は興奮していた。
 はげし~。すこぶるはげし~。これでバケツ水でも降ってきたらフラッシュダンスや~。
 木村は気づいてないのだろうか。
 見ると、木村はゆるく笑ったまま海を見ている。
 この仙人のような笑い・・・怪しい。
 いつもの木村の穏やかな笑いなのだが、涼子はそれに気付かないほど興奮していた。
 涼子は木村の顔と隣のカップルの動く影を交互に見た。
 ほんとに見えてないの~。
 涼子は目を細めて、木村を見た。
 しかし、木村にはそのカップルの姿が目に入っていなかった。
 木村は眼鏡をかけたりコンタクトレンズをいれたりはしてないが、両目の視力はともに0.3ほどだ。
 遠くのベンチに座ったカップルが激しく絡み合っている姿など見えない。
 涼子は木村を疑いながらもカップルが気になって仕方がない。
 ま、いっか、今はこっちだ!
 激しく揺れていた女が男から離れる。
 かと思いきや、男の前に跪く。
 男の(おそらく)大きなものがむき出しになる。
「おうっ」
 思わず声が漏れる。
 やばいと思って木村を確認すると、木村はさっきど同じように満足気に海を見ていた。
 ボケた老人のようだ。
 そんなに海が好きなのだろうか。忘れたい仕事のつらさでもあるのだろうか。
 だとしたら話を聞いてやらないといけない。でも、今は、今だけは・・・
 涼子はカップルに目を戻す。
 むき出しになっているものを男がしごく。
 そして、迸るものを女が顔でうけていた・・・
 え? うそ? 最後はガンシャ?
「ここ、公園だよ」
 それも日本の中でもかなり有名な。
 地方のさびれた児童公園じゃないのに・・・
 涼子は混乱する。
 大胆、ダンカン、ダンダダン、ガンシャ、細川ガラシャ、官舎、感謝、がらがらがっしゃ~ん・・・
 涼子の頭のなかで単語が踊る。
「だから、ファイスブックやろうよ」
 涼子は驚いて木村のほうを振り返る。
 こっちを見ている木村はいつも通り笑顔だ。
 だから?
 だからって何? あのカップルと関連させてるの? 
 それとも何か語りかけていたの? そんなの耳に入るわけないではないか。
 だって、公園でガンシャだよ。ガンシャ。
 そう言ってやりたいがそうも言えない。
 ってゆーか、さっきの様子を見ていて、こんなに冷静なのだろうか。木村には全く見えてないのだろうか。
 疑心暗鬼で体がぎゅっと固まるのがわかる。
 いつも通りの木村が涼子は少し怖くなる。
 それに、ファイスなんとかってなに・・・ファイス・・・顔・・・
「いいよ~、ファイスブック」
「え?」
「だから、涼子ちゃんもファイスブックやろうよ~」
 フェイスブック???
 さっきのカップルのシルエットが頭をかけめぐる。
 ファイスブックやろうよ~???
 (気持ち)いいよ~。
 それってどーゆー意味?
 思わず頭の中で三段活用がはじまる。
 こ、き、く、くる、くれ、こっ!!
 せ、し、す、する、すれ、せよっ!
 ありをりはべりいますがりっ!
 それって、つまり・・・
 涼子ちゃんもファイスブックやろうよ~
 涼子ちゃんにもファイスブックさせてよ~
 涼子ちゃんにファイスぶっかけ~
 涼子ちゃんの顔にかけさせてよ~
 いいよ~、いいよ~、ええやんけ~
 なんてこと・・・
 涼子は怒りで体が震えはじめる。
 ちなみにこのころファイスブックはまだ万人が知るものではなかった。
 木村は流行に敏感な商社マンだったからすでにファイスブックをはじめていただけで、パソコンにも興味が薄かった涼子がそれを知るはずはなかった。
「ずっと優しかったのに・・・」
「え?」
「こんなんだったら、最初っからそう言えばよかったじゃん。こんなにじっくり時間かけてっ! エリートって陰険で助兵衛で最低っ!」
「え、何言ってんの、涼子ちゃん・・・」
 見ると、隣のカップルが仲良く手をつないで歩き出す。
 なんで? こっちは喧嘩してんのに。
 涼子たちから離れていく二人の足取りは軽かった。
「誰のせいだと思ってんだよっ!」
 てめえらだけすっきりしやがって。
「え? 涼子ちゃん? 誰に向かって怒鳴ってんの」
 涼子は再び木村に向き直る。
「しらばっくれやがって。ほんとは見えてたんだろっ! じゃないとファイスなんとかなんて言うわけないだろっ!」
「え? なにが?」
「このっ、むっつりスケベ野郎っ!」
 涼子は海に背を向けて、早足で歩きだす。
 海からのぬるい風が涼子の背を押した。
 海もこの男から早く離れろって言ってるに違いない。
「そうに違いない」
 涼子はつぶやきながら、足を早めた。

 涼子は泣きながら帰宅した。
 泣いて泣いて、泣き明かした翌朝、涼子は木村が裸眼だが視力が悪いと話していたことを思い出し、青くなった。
 木村には見えてなかったのかもしれない。
 涼子は慌てて木村に謝りに行った。
 確認すると、木村にはやはり何も見えていなかった。
「隣のカップルって?」
 涼子は恥ずかしさと後悔でうまく口がまわらなかった。
 冷静だったとしても、あの状況をうまく伝えられたとは思えない。
 そして伝えられたところで、木村が涼子のことをまた好きになったとも思えないのだった。状況が状況だっただけに・・・
 木村の前で青く小さくなっている涼子を見て、木村は苦笑した。
 そして、「縁がなかったんだね、僕たち」と笑った。
 涼子はそれにも言葉を返すことができなかった。

 ああ、木村はほんとにオトナだったんだなと涼子は思う。
 してない女、しようと思えばこれからできる女に対して「縁がなかった」と諦められるほどに(実際はいきなりキレた涼子の剣幕に木村がすっかり冷めきってしまっただけなのだが)。
 時計は午前三時をさしていた。
 木村とのことを思い出しながら、涼子はいつしか眠りに落ちていた。
 涼子の閉じた瞼の間から、一筋つーっと涙が滑り落ちた。

 

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